日々の医療安全を考える。(令和6年 年始の御挨拶)

新年あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願い申し上げます。

能登半島地震、羽田空港の飛行機事故と年始から慌ただしく、被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。

防災訓練は案外大切ですね。有事はいつ発生するか本当にわからないものです…。防災意識を高めるという意味では大きな意味があったように思います。

自主防災訓練、避難訓練

なお、当院は年始4日10時より診療を再開させていただいております。

さて、本日は年末の気になるニュースを基にブログを書いてみました。

下記、詳しい事情はニュースでしかわからないのですが、当方は歯科麻酔科に在籍していた過去がありますのでコメントさせて頂こうと思った次第です。

※同一市内にありますが、当院は報道とは無関係です。

2023年12月16日 13時35分 

ことし7月、大阪・堺市の歯科診療所で、特別支援学校に通う17歳の男子生徒が全身麻酔で歯を抜く治療を受けた際に低酸素状態となり、およそ1か月後に死亡していたことが遺族などへの取材で分かりました。肺に酸素を送るチューブが誤って食道に入っていた疑いがあるということで、警察が当時の状況を詳しく調べています。

亡くなられた患者様、ご家族様にはお悔やみ申し上げるしかないニュースです。

※当方は歯科麻酔専門医や歯科麻酔認定医ではありませんが、わかる範囲でコメントさせて頂きます。

(麻酔科、歯科麻酔科の先生方へ:ご質問や疑義ありましたらコメントいただけますと向学の上でありがたいです。)

全身麻酔は「鎮痛」「鎮静」「筋弛緩」の3つのバランスで成り立っている医療行為です。

有害反射の抑制も4項目目に挙げられますが、ここでは割愛します。

鎮静(ここではわかりやすく意識レベルと表現したほうがいいでしょうか)が深くなると人間は呼吸が止まるため、人工呼吸が必要になります。

→呼吸抑制と麻酔科では言ったりします。

意識レベルが下がっていくと睫毛反射の消失(まつげを触っても開眼しない)が起こります。

そしてさらに筋弛緩をおこなうと自発呼吸(呼吸筋群の運動)も消失するため、必ず人工呼吸が必要になります。

自発呼吸の消失→徒手によるマスク(補助)喚起→(挿管チューブによる)人工呼吸を行う過程で、

おそらく、このニュースから察するに喉頭展開(喉頭鏡と呼ばれる道具を用いて気管を目視で確認する医療行為)時に誤って気管ではなく、食道に人工呼吸の管を通してしまっており、エラーが発覚してから人工呼吸がほぼ行われていなかったものと推測されます。

↓ 正しい気管挿管のイメージ

(マッキントッシュ型)喉頭鏡

喉頭展開は、何も考えずに行うと食道しかおそらく見えません。

かなり目視しにくい気管を目視することを喉頭展開と呼びます。

実際の喉頭展開では下記のような肉眼像が得られます。

↓ 声門(気管入口部であり、スニッフィングポジション時における喉頭展開時にはこのように見えます。)

食道挿管になった場合は、

生体モニターやカプノ上でエラー(特に終末呼気二酸化炭素分圧:Etco2や動脈血酸素飽和度:SpO2、など)がはっきりと出ます。

↓ 数字でも出ますし、グラフ化もされ、一目瞭然でわかります。

↑ このようにグラフで呼吸で得られる二酸化炭素量がモニターに表示されます。

気管の目視、挿管後の左右の肺4点、および胃の聴診やEtco2確認、

それだけでもさすがに食道挿管していること、食道挿管しているかも?ぐらいは上記のチェック項目である程度は把握できます。

挿管できているかどうか胸部X線検査を行うこともあります。

しかしながら、

実際、先ほど申し上げたように喉頭展開時に気管がほとんど見えないことはしばしば直面します。

(内視鏡やビデオカメラのようなもので盲目的に人工呼吸のチューブを通すこともあるぐらいです。それでも気管が全然見えないこともあったりします。)

↓ ビデオ喉頭鏡

↓ 内視鏡

気管挿管は麻酔科では様々な手技の中でも難しい手技に分類されると思います。

今回のニュースのケースでは、気管支痙攣が挿管困難に至らしめる大きな原因だったようですが、痙攣下でマスク喚起も難しかったり、食道挿管してしまってから(換気による)空気混入によって逆流してくる胃液もあったり、そのような状況下で2回目で気管挿管を成功させるのも容易ではないと思います。

不幸なことに、

結果的に事故につながってしまったことはとてもとても残念でなりません。

結論的には、

食道挿管が問題というより、

気管支痙攣下で再挿管を試みるも環境的に、および人員配置などのマンパワー的、かつ技術的に気管挿管が適切に行われない中で緊急的な判断が遅れ、患者に適切な医療が提供できなかったこと、この事が当問題の本質な気がします。

個人的に感じるのは食道挿管よりも上記の点です。

救急コールしていた場合は、救急救命士による気管挿管が可能であり、マンパワー的な問題点をカバーできる可能性が大いにあったと考えます。技術的な問題がカバーされ気管挿管が適切に行われたかもしれないと考えると本当に悲しいニュースだと思います。

月並みなコメントですが、人間が行う操作である以上、(ヒューマン)エラーは起こり得るものだと思います。

ですが、万が一そのエラーが起きても危害を患者側をはじめその周囲まで絶対に波及させない、仮にあっても最小限にする、ということ、

今回のニュースで考えさせられた次第です。

当院でも麻酔を用いた処置は行いますが、当院では全身麻酔による処置は行っておりません。

笑気麻酔、静脈麻酔は行っておりますが、完全予約制とさせていただき、患者様には十分に安全な環境を完備したうえで処置を進めます。

緊急事態に備え、生体モニター、カプノメーター、マスク換気一式、高濃度酸素吸入器、喉頭鏡、挿管用チューブ、緊急用薬剤など準備に準備を尽くしておりますので、安心してご受診頂ければと思います。(詳しくは医院の設備案内をご覧ください。)

院内設備 – やまなデンタルオフィス公式サイト (yamanadentaloffice.site)

麻酔がしたくて開業した経緯がありますが、案外麻酔を希望される診療が少なく、

患者様にとっては安心して受診頂けている結果なのかぁと年末の忘年会でスタッフと回顧しておりました。

本年は障碍をお持ちの方にも当院をお気軽にご利用いただけるようにしていきたいと考えています。

静脈内鎮静法、静脈麻酔のご予約に関しまして – やまなデンタルオフィス公式サイト (yamanadentaloffice.site)

本年、令和6年も変わらぬ御贔屓のほどよろしくお願い申し上げます。

やまなデンタルオフィス

院長 山名 唯


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